① 脊椎疾患

1) 腰椎椎間板ヘルニア

人間の椎間板は25歳ころより変性が生じ、椎間板内の水分が減少し腰椎の支持性が不安定になってきます。
椎間板は、外側の繊維輪と内側に髄核が存在しています。
椎間板の変性が進むと繊維輪が弱くなり、重たいものを持ったり、大きなくしゃみをするなど腰に強い負荷がかかると、繊維輪が損傷し、内側に存在する髄核が椎間板の外側(硬膜外腔)に脱出することがあります。
これが椎間板ヘルニアの病態です。
椎間板を饅頭に例えるなら、饅頭の皮が破れて中の餡子が出た状態が椎間板ヘルニアです。


症状
椎間板ヘルニアは急激な腰痛にて発症し、体動困難になることがあります。
ヘルニアがさらに脱出して、下肢の神経にまで及ぶと、下肢の痛み、しびれ、筋力低下を生じることがあります。

検査
レントゲン写真では、わかりにくいことが多く、MRI検査が有用です。

治療
痛みが激しい急性期には安静が必要です。
コルセットによる装具着用、鎮痛薬などの薬物療法、牽引 温熱 電気治療、腰痛体操などの理学療法、圧痛部位へのトリガーポイント注射、仙骨硬膜外ブロックなどの注射療法も効果的です。
なお、下肢痛 しびれが強い場合は、透視下に神経根ブロックを行うことがあります。
上記の保存的加療で十分な除痛効果が得られなかった場合は、手術的加療が必要です。
また、最近は局所麻酔で椎間板内に薬物を注入する椎間板内治療も行われています。


2) 腰部脊柱管狭窄症

中年以降加齢によって、椎間板の膨隆、椎間関節、黄色靭帯の肥厚などにより、神経が通っている脊柱管が狭くなり、神経の圧迫、虚血が生じ 腰痛 下肢の脱力 痛み しびれを生じる疾患です。


症状
長い距離を歩けない間欠性跛行が特徴的な症状です。
すなわち、歩行中腰痛や下肢のつっぱり、痛み しびれが増強し、立ち止まって座位もしくは前かがみになって休まないと歩行できなくなります。
また、自転車やシルバーカーなどは楽に行えるのも特徴です。

検査
レントゲン写真、MRIなどが有用な検査です。

治療
まずは保存的加療が選択されます。
鎮痛薬や神経ブロックによる症状の軽減や、ストレッチ コルセット装着、リハビリテーションなどが含まれます。
腰周囲の筋力を保つことが重要となってきます。
高齢者の場合、腰部脊柱管狭窄症が進行すると、しびれ 痛みから運動を控えるようになり、腰の筋力低下を助長させてしまい、症状を悪化しかねません。
そのため、適度な運動、リハビリテーションにより筋力保持を図ることが重要です。
椎間板ヘルニアと同様、上記のような保存的加療に抵抗した場合は、手術的加療が必要となります。


3) 骨粗鬆症性圧迫骨折

骨粗鬆症が進むと、軽微な外傷で脊椎の圧迫骨折を生じることがあります。
(いつのまにか骨折)
例えば、草むしり 雪かき 布団の上げ下げ、重量物の運搬などで生じえます。

症状
体動時痛が特徴的です。
座位から立位になる時や、寝返り時の疼痛です。

検査
レントゲン写真、MRIなどが有用な検査です。
特に軽微な外傷で生じる『いつのまにか骨折』は、レントゲン写真ではわからないことが多く、MRIが必須の検査となります。
MRIは、予後判定にも非常に有用です。同時に骨密度測定も重要な検査です。

治療
まずは 局所の安静、 コルセットの着用、廃用予防に体幹筋力増強のリハビリテーションが必要です。
同時に、骨粗鬆症の治療(注射による薬物治療)が必要です。
最近は、早期除痛 早期離床を目指して、経皮的椎体形成術を行うこともあります。


4) 腰椎分離症

過度のスポーツや腰部の回旋(ひねる動作)などの負担によって、腰椎の後方部分が疲労骨折(分離)する病気です。
主に10代の成長期に見られます。

症状
多くは腰痛がきっかけで発見されます。特に後ろに反らす動作をしたときに痛みが誘発されます。

検査
レントゲン、CT、MRIなどの画像検査が行われます。
レントゲン写真では、進行している場合確認できますが、初期の場合はMRIにて診断されます。
治療の項でも触れますが、初期に発見されれば治療効果がより高く期待できます。

治療
初期の段階では、局所の安静や鎮痛薬などの保存的治療が行われます。
特に 成長期の初期の分離症であれば、硬性コルセットの装着、運動の中止などにより高確率で治癒が期待できます。
即ち MRIによる早期診断によって早期治療が可能で、運動中止の時期にても、リハビリ理学療法士による分離部に負担のかからない体幹筋力訓練などにより 筋力の維持が得られ、復帰時の大きなアドバンテージとなります。


5) 頸椎椎間板ヘルニア

頸椎は7つの骨によって構成されていますが、その骨(椎体)の間に存在する椎間板が正しい位置から脱出し、神経を圧迫したものを、頸椎椎間板ヘルニアと呼びます。20-30代の比較的若い世代に多く見られます。
近年 スマートホンやパソコンによるストレートネックも関与があるものと思われます。

症状
頸部痛、肩こり 肩甲骨部痛、上肢のしびれ 痛み 握力低下、脱力などがあります。
下肢の脱力を引き起こすこともあり、その場倍 つまずくなどの症状が出る可能性もあります。
最初、寝違えと思っていても、2週間以上頸部痛が続く場合は、頸椎椎間板ヘルニアを強く疑います。

検査
比較的若年者に発生することが多く、レントゲン写真ではわからないことが多く、MRIが有用な検査です。

治療
軽いしびれや痛みなどの症状が見られた場合は、まず保存的療法が第一選択となります。
局所の安静、鎮痛薬やビタミン剤投与、頸椎牽引などの理学療法も有用です。
短期間のステロイド注射も効果があることが知られています。
ただ手足の麻痺が重度な場合また進行性の場合は、手術的加療が必要となります。


6) 変形性頚椎症

加齢によって首の骨である頸椎が変形し、頸椎を通る脊髄やそこから分岐し上肢の運動 知覚を司る神経根を圧迫しダメージを与える疾患です。
椎間板の加齢的な変性により椎間板が狭小化し、弾力性を失い動的ストレスにより骨が増殖 変形して引き起こすと考えられています。
また、以前 事故により頸椎捻挫(むち打ち症)の既往があり、頸椎のアライメント(並び、配列)が悪くなることも原因の一つと考えられています。

検査
レントゲン写真で、骨の変形 並びの状態がわかります。
上肢の症状がある場合は、MRIにて神経の評価が必要です。

治療
軽いしびれや痛みなどの症状が見られた場合は、まず保存的療法が第一選択となります。
局所の安静、鎮痛薬やビタミン剤投与、トリガーポイント注射、頸椎牽引などの理学療法も有用です。短期間のステロイド注射も効果があることが知られています。
ただ手足の麻痺が重度な場合また進行性の場合は、手術的加療が必要となります。